Retro-Politan World
最後の思い出


小学校6年生頃になると、高度成長期が始まっていた。
日本中に新しい家や工場が次々に建てられ始め、その為に最初に空き地や林が姿を消した。

その林は、砂利穴と共に造成されて大きな空き地になってしまった。
たまたま、その近くに住んでいる知り合いを親と一緒に訪ねた帰り道にそこを通って
余りに変わってしまったのを知ったのだ。

林は一部を残して綺麗に切り倒され、農家も居なくなっていた。
砂利穴は埋められて、赤土の広場に変わっていて、おやぢはショックで声も出なかった。
その後、そこには大きな物流基地が出来て、おやぢも高校生の時にはアルバイトで通ったが
小学生の頃の面影は全くなくなり、住宅街の一角になってしまっていた。

中学生になる頃には、日本列島改造論などと言って日本中の自然が失われている真っ最中だった。
田んぼも畑も林も空き地も、次々に潰されて宅地になり家が建った。
多摩川は巨大なドブ川に変わり果て、小川や用水はドブ川から下水路になって埋められた。
森から虫は消え、川には魚の姿も見えなくなった。
おやぢもさすがに虫捕りと言う年齢ではなくなったので、もう虫捕りには行かなくなった。

そこら中が環境美化の名の下に消毒され、蚊やハエが居なくなった代わりにセミも昆虫も消えた。
日本中の自然が、一番強力に失われた時代だった。
大人になってから、子供の頃に遊び周った場所を訪れてみると、まず何処だったか判らない。
地形さえもが変わってしまい、家だらけで見通しも付かないし、目印も消えてしまった。

かつて田んぼの中の島だった所は、かろうじて公園として形を保っていたが、周りを柵で囲まれ
平坦な林になって、中は明るくまばらになっていた。

もう、おやぢは虫捕りの夢も見る事はなかったが、心の一番深いところに溶岩のように燻って
居たのかも知れない。




カブト虫がやって来た